2025年農林業センサスの農業集落調査の継続を求める声明

 

2025年農林業センサスの農業集落調査の継続を求める声明


一般社団法人 人文地理学会常任理事会
代表理事 野間晴雄


 農林水産省が1955年以来実施してきた「農林業センサス農山村地域調査(農業集落調査)を2025年農林業センサスから廃止する方針が、過去2回(2022年7月、9月)開催の2025年農林業センサス研究会で示されました。委員のなかからは農業集落調査の廃止反対論も出ましたが、農林水産省は、個人情報保護強化や農業集落自体の高齢化・人口減少による調査の困難、地方農政局職員の不足を理由に、廃止の方針を変えていません。

 今日の日本の農業・農村がきわめて多くの課題を抱えていることは誰しも認めるところです。その実態把握と地域による違いを詳細に分析しながら、ボトムアップ方式で政策提言にあげていくために、信頼できる基礎統計は必須の資料です。それに加えて、環境保全、防災、地域社会のありかたを考えるためにも、農業集落調査の各項目はいずれも欠かせません。農業集落調査は、紙媒体、マイクロフィッシュからデジタルデータでの提供と変遷しながらも、戦後70年間の日本の農村地域の変化を追跡できる、世界にも類がない貴重な小地域単位の基礎統計です。個々の農業集落の変化を長期的に検討するためにも、農業集落調査は欠かせません。

 今回、廃止候補にあがっている項目は、集落の寄り合いや地域活動の実施状況、地域資源の有無、実行組合の有無など定性データが中心です。前回の2020年調査でも、行政情報や民間データを利用した代替把握で省力化・合理化が図られましたが、その検証もなしに今回の廃止案は時期尚早と考えます。市町村などの地方自治体やその支所(平成の大合併の旧市町村)の連携協力で、調査員や調査客体の確保の可能性は十分あります。

 現代の日本では、集落維持が困難な集落が増える一方、新型コロナウィルス感染拡大を契機として、田園回帰、農村移住、二拠点居住の動きなど、大きな変化の渦中にあります。こういう構造変革期こそ、小地域集団毎の分析に基づき、各々の特徴を生かせる方向性の政策や分析が必要です。集落から最も近いDID(人口集中地区)、生活関連施設までの交通手段別所要時間などの項目は残すことによってこそ、メソスケール、ミクロスケールでの分析や研究が進展し、地方自治体のきめ細かな地域計画にも貢献できます。

 政府統計は、国の政策立案にのみ活用されるのではなく、ひろく社会資本として、地域社会や教育現場で、子どもたちが地域の実態を自ら把握して将来像を考えるためにも、教師・生徒学生、市町村、地域アドバイザーや研究者にとっても必須の資料です。

 農業集落調査は、集落を統計的に集計して全体を概観するのみならず、集落の個性を把握でき、すべての国民がアクセスできる希有の統計でもあります。これまでの連続性、統計単位の独自性からも、調査方法の見直し等によって、事業の継続を要望いたします。

2025年農林業センサスの農業集落調査の継続を求める声明

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