特別研究発表について
2018年の人文地理学会大会は,11月23日(金)~25日(日)の3日間,奈良大学を会場に開催されます(11月23日(金)は,午後からエクスカーションを実施)。
11月24日(土)の13時~16時(予定)には,以下の4名の方に大会特別研究発表をお願いしています(発表者の50音順に掲載)。
なお,特別研究発表の教室や発表の順番,座長等については,<2018年人文地理学会大会について[第3報]>でお知らせします。
特別研究発表の要旨(発表者の50音順)
湿地漁業の文化生態 -熱帯アジアとカリブ海の事例から-
池口明子(横浜国立大学)
河川氾濫原や干潟などの湿地は,生業技術や制度の多様性,その環境との関係を考えるうえで面白いフィールドである。湿地と人のかかわりを描く環境史は,開発側の視点によるものが主流であったが,小規模漁業に着目することで,自然環境により接近した記述が可能になる。その1つの方法としての文化生態学は,人と自然に関する新たな知見を環境史に活かすために有用な方法である。本発表では,主に湿地を対象とした環境史と,文化生態学的研究の方法論を考える。事例として熱帯アジアとカリブ海の湿地漁業をとりあげる。熱帯アジアでは湿地の環境特性や,その生業とのかかわりに関する研究がすすんできた。一方,カリブ海地域では,少数民族の自治や権利擁護の文脈で生業文化が記述されている。両地域の具体的な事例から,この分野の課題を検討したい。
山村の内発力に学ぶ -共有林の地域的機能と地域政策-
西野寿章(高崎経済大学)
1965年の山村振興法,1970年の過疎法の制定は,高度経済成長期における都市との格差是正をめざしたという点では一定の成果があり,1980年代初頭からの先端技術産業の発展も山村振興に有効であった。しかし,1985年のプラザ合意によって,それまでの政策が根底から覆され,急速な円高は誘致工場の海外移転,外材輸入を促進した。今日,山村の多くでは,経済的基盤の構築が困難な状況にある。報告者は山村地域の開発と振興に関する研究を積み重ね,山村政策が効果を現さないのは,住民を主体として政策が考えられていないことに一因があると考えている。それは,戦前戦後を通して,山村社会では木材価格が経営可能な水準にあれば,共有林が地域づくりの源泉となっていたことが判ったからである。このことを現代の山村振興に活用することができないのか,考えてみたい。
グローバル都市化するクアラルンプルのランドスケープ/エスノスケープ/ツーリズムスケープの変貌 -その地誌的素描-
藤巻正己(立命館大学)
クアラルンプル(KL)は英領マラヤの植民地首都としての歴史を有す。1957年の独立以降,多民族国家マラヤ連邦,マレーシア連邦の首都として,マレー・ナショナリズムの沸騰を調整しつつ国民統合政策の推進装置としての役割をはたしてきた。他方,1980年代以降,ASEANおよびその周辺地域におけるモノ・ヒト・資本・情報のトランスナショナルなフローの結節点,イスラーム圏と東アジアとを接合するハブへと展開するに至っている。こうした過程のなかで「世界都市」を目指すKLが,そのランドスケープ,エスノスケープをどのように変貌させてきたのか,国際ツーリズム拡大の中でどのようなツーリズムスケープを生成しつつあるのかについて,フィールド経験にもとづく発表者の心象風景の地誌的素描を試みる。
産業集積とネットワークへの進化的アプローチ
水野真彦(大阪府立大学)
制度的・関係論的経済地理学は,近年欧州を中心に研究が進む進化経済地理学と相互に影響を与えあい,新たな研究潮流を生み出しつつある。本報告は,進化的アプローチを取り入れ,産業集積とネットワークを動態的に捉えるいくつかの試みについて検討する。まず,集積におけるスピンオフダイナミクスや集積のライフサイクル説など,産業集積の形成と発展を進化プロセスとして捉える議論について,これまでの経済地理学との関係を踏まえて検討したい。また,企業間のネットワークを進化プロセスとして捉える研究も増加している。地理的だけでない様々な次元での近接性がネットワークの形成をもたらし,ネットワークの持続が近接性を増大させるという双方向的な関係に関する議論を整理し,そうしたネットワークの動態的変容と産業集積の進化プロセスとの関係について考えたい。