2017年人文地理学会大会 特別研究発表の題目および概要のお知らせ(予告)

特別研究発表について

2017年の人文地理学会大会は,11月18日(土)~19日(日)の2日間,明治大学駿河台キャンパス リバティタワーを会場に開催されます。
大会初日の11月18日(土)の13時~16時には、以下の4名の方に大会特別研究発表をお願いしています(発表者の50音順に掲載)。

なお,特別研究発表の教室や発表の順番,座長等については,<2017年人文地理学会大会について[第3報]>でお知らせします。

特別研究発表の要旨(発表者の50音順)

地理学からの環境運動研究

淺野敏久(広島大学)

 環境運動を含む社会運動を社会学や政治学は重要な研究対象のひとつとしてきたが,地理学でも社会運動を対象とすることがある。環境に限れば,「自然の地理学」のような社会運動論とは別の切り口からのアプローチもある。本発表では,発表者の調査や活動による知見をもとに,環境運動に地理学がどのようにアプローチできるのかを検討したい。話題としては,1)運動と地域の関わり(運動への地域性の反映,運動による地域への影響),2)環境問題の構築と地域,3)実践としてのエコミュージアム等とする。同じような環境変化に対し,地域によって,運動のしかたや性格,目標が異なることに注目し,地域の文脈から運動および運動が提起する環境問題を理解しようとすること,また,環境運動研究を通じて,各地域の人々の自然に対する見方や態度を理解しようとすることなどは,地理学的アプローチの特徴になると考える。


子どもの地理学の展開-英語圏と日本との比較

大西宏治(富山大学)

 わが国において少子化にともなう子どもの生活環境の変化や子どもの貧困といった問題は様々な学問分野から研究が行われている。しかしながら,日本の地理学界で子どもの生活環境などの研究課題が積極的に取り上げられているとはいえない。それに対して英語圏では,子どもの地理学が盛り上がりを見せており,日本の学界との間に大きな温度差が感じられる。日本の地理学界では子どもに関わる課題が地理教育で取り組まれ研究の蓄積は進んだものの,生活者としての子どもに対して十分な取り組みがあるとはいえない。英語圏の子どもの地理学の展開と同じ時期に子どもの生活空間について新たな視点から取り組んだのが建築学や都市計画などであった。本発表では2000年代以降の英語圏での子どもの地理学の展開について整理するとともに,日本における研究の展開との差異が生じた要因について検討する。


日本の歴史空間と「蝦夷地」像

米家志乃布(法政大学)

 歴史的にみれば,北海道は単なる日本の一地域ではない。現在のわたしたちが「北海道」と呼んでいる地域は,歴史的・空間的に,本州以南の地域と明確に区別されていた。本報告は,いつ如何にして当該地域が「日本」に組み込まれてきたのか,古地図から明らかにすることを目的とする。その際,二つの点に注目する。ひとつは「蝦夷地」が古地図上にどのように描かれてきたのか,ヨーロッパ・ロシア・日本で作製された地図における「蝦夷地」像の特徴を明らかにする。もうひとつは,日本の地図作製における「蝦夷地」/「北海道」の地域情報の収集とその表象のあり方である。
これらの分析により,「和人の土地」としての「蝦夷地」/「北海道」像が創出されていく過程を論じる。同時に,先住民族であるアイヌの人々の空間情報は和人の地図作製に利用されつつも,結果として,その存在は絵図・地図から消えていくことになった。


イメージの向こうの集団就職─移動制度の時空間をめぐる再検討─

山口 覚(関西学院大学)

 『Always』や『ひよっこ』といった高度経済成長期を対象とした作品は,新規学卒者の集合的な労働力移動現象である集団就職の情景を描いてきた。一般に集団就職は高度経済成長期の現象だと見なされ,「1954年青森発上野行き就職列車」を嚆矢とするという「神話」もある。社会科学界でもこうした巷説が流布している一方で,行政用語ではなかった集団就職という概念の曖昧さを理解した上で「集団就職」というように括弧付きで表現する者もいる。改めて検討してみると,集団就職は広域職業紹介制度や集団赴任制度といった諸制度によって生じたこと,これらの諸制度がすでに戦前の1930年代に確認され,戦時体制下で確立されたことが理解される。最初の専用臨時就職列車は1939年の運行である。戦後の集団就職は,それらの諸制度が「再開」され強化されることで生成したものであった。この発表では諸制度の展開をめぐる再検討から,一般的なイメージとは異なる相で集団就職をとらえてみたい。

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